ケーキ屋さんの人手不足について、オーナーの方とお話しすると、まず「人が来ない」という話になります。ただ、話をもう少し伺っていくと、本当に困っているのは「来ない」ことよりも「続かない」ことだと分かってきます。
先に結論を書きます。若いスタッフが辞めていく理由は、朝の早さや立ち仕事のきつさだけではありません。「ここにいても何も覚えられない」と感じたときに、人は辞めていきます。そして、教える時間を奪っているのは、厨房の外にある予約の受付や電話、DMの返信といった「作業」であることが多いのです。
この記事では、ケーキ屋さんのオーナーの方から伺った声と、私自身が新聞販売店を15年経営していたときの経験をもとに、スタッフが続くお店にするために「店主の時間」をどう取り戻すかを書きます。
この記事の内容
スタッフが辞める理由は「きつさ」だけではない
ケーキ屋さんの仕事がきついのは事実です。朝は早く、立ちっぱなしで、冬は水仕事で手が荒れます。だから私も、若い方が辞めていく理由は、まずこの体のきつさだと考えていました。
ところが、辞めた側の話を読んでいくと、最後に背中を押しているのは少し違うものでした。製菓業界向けの人材サービスの記事では、若手のパティシエが辞めるときの言葉として「この店じゃ何も覚えられないから」「早く技術を教えて欲しい」が挙げられています。ナッペ(クリームを塗る工程)を任されるまで何年も待つことへの拒否感にも触れていて、原因はお金よりも「技術を身につける機会が足りないこと」だと整理されていました(ケーキアカデミー「パティシエ超離職率の原因を現場から解説」2024年8月)。
きつい日があっても続く人はいます。続かなくなるのは、一日の終わりに手元に残っているのが「作業をこなした」という感覚だけになったときです。
私たちは毎日、ケーキ屋さんで伺った話をSNS(Threads)に書いています。この「辞める理由はきつさより作業」という話を書いたところ、3万回以上読まれました。私たちの投稿としては大きく広がったほうです。そして反応してくださった方の半分ほどは、ケーキ屋さんではなくカフェのアカウントでした。この悩みは、ケーキ屋さんだけのものではないということだと思います。
教える側にも、教わる場所がなかった
では、お店が教えようとしていないのかというと、そうではありません。ここが、私がいちばん伝えたいところです。
オーダーケーキを長く作っているあるオーナーの方は、ご自分たちの世代のことをこう話していらっしゃいました。自分たちは厳しく鍛えられて育った世代で、今の時代に合う「数値にして伝える教え方」は、誰からも教わっていない。だから人を雇わず、ひとりで店をやる人が増えている、と。
私はこれを、作る技術は何十年も磨いてきたのに、教える技術だけは習う場所がなかったということだと受け取りました。
人を入れずに、自分ひとりの手が届く大きさまで店を小さくする。ひとりで店を回しているケーキ屋さんが増えている背景には、こうした静かな選択も含まれているようです。
同じ方からは、研修の中身が変わってきたという話も伺いました。
「失敗をしないレシピっていうのがすごく多いんです。私たちの講習会でも」「パートさんでも職人さんでも同じものができるレシピみたいなので、数値化してあるんですよね。だから職人さんをあんまり育てない」
― オーダーケーキを作るケーキ屋さんのオーナー
数値化されたレシピは、人が足りない現場を助けてきました。誰が作っても同じ品質になるのは大きな強みです。ただ、その分だけ「なぜこの温度なのか」「今日の生地はどう違うのか」を考える機会は減ります。レシピどおりに手を動かす時間が長くなるほど、仕事は「作業」に近づいていきます。
これは誰かが悪いという話ではありません。人手が足りないなかで、品質を守るために選ばれてきたやり方です。そのうえで、「教える時間」をどこから持ってくるかが、これからのお店の分かれ目になるのだと私は見ています。
時給を上げても、12月のシフトは埋まらなかった
ここで少し、私自身の話をさせてください。私はケーキの会社を始める前、家業の新聞販売店を約15年経営していました。スタッフの多くはパートの方で、扶養の範囲を気にしながら働いてくださっていました。
最低賃金が上がるたびに、私は時給を上げました。それ自体は、いまも間違いだったとは思っていません。ただ、時給が上がると、決まっている年収の上限に届くのも早くなります。だから年末、いちばん人が欲しい時期に、入れる日数が減っていく。賃上げをした年ほど、12月のシフト表が埋まりにくかったのです。
このとき学んだのは、人を増やす努力だけでは、人手不足は解決しないということでした。働いてくださる方が悪いわけではまったくありません。ご自身の暮らしを守っているだけです。変えられるのは、店の側の「仕事の中身」のほうでした。
ケーキ屋さんも、これから12月の人繰りを考え始める時期です。人を足すことと同じくらい、今いる人の時間を何に使っているかを一度見直す価値があると思います。
教える時間を奪っている「作業」の正体
オーナーの方の一日を伺っていくと、ケーキを作る時間と教える時間の両方を削っているものが見えてきます。多くは、厨房の外にある「受付の作業」です。
電話のたびに、手が止まる
私たちがお話を伺った複数のケーキ屋さんで、共通して出てきたのが電話の負担でした。問い合わせの電話と予約の電話が混ざってかかってくる。営業中に手が止まる。電話に出るために、スタッフを一人取られる。
デザインケーキの注文を電話で受けると、1件あたり15分ほどかかります。1日に5件あれば75分です。この75分は、本来なら新人の方の隣に立って、ナッペや絞りを見てあげられた時間です。
夜のDMが、翌朝の体力を削る
InstagramやLINEのメッセージで予約を受けているお店では、やり取りが閉店後にまで続きます。あるオーナーの方は「夜に問い合わせが来て、どうしても手をつけちゃうんです。本当になんかもう半日、私スマホと戦ってるみたいな」と話していらっしゃいました。別のお店の方からは「結局そのやり取りがいつまで経っても減らないで、作業時間が減ってしまうんですよね」という声も伺っています。
実際、いつでもケーキを導入しているお店のデータでは、Web予約の約51%が営業時間外に入っています。お客様は、お店が閉まっている時間に予約したいのです。その需要をDMや電話で受けようとすると、店主の夜がなくなります。
店主の一日から外せる作業の一覧
ケーキ屋さんでよく伺う受付の作業を、外し方と一緒に整理しました。
| 作業 | いまのやり方 | 外し方 |
|---|---|---|
| 予約の受付 | 電話・店頭で聞き取って紙に書く | お客様に入力してもらう(Web予約) |
| 細かい確認 | サイズ・プレート文字・受け取り時間をDMで往復 | 選択肢と入力欄を最初から用意しておく |
| 台帳への転記 | 予約票をノートやカレンダーに書き写す | 受付と同時に一覧へ自動で並ぶ形にする |
| 代金の受け取り | 受け取り時にレジで精算 | 予約時の事前決済にする |
| 営業時間外の対応 | 閉店後にDMを返す/翌朝に折り返す | 24時間、お客様側で予約が完結する形にする |
どれも、ケーキの味や品質には関わらない作業です。外しても、お店らしさは何も減りません。減るのは、店主とスタッフの手が止まる回数です。
店主の時間を取り戻す3つの手順
ここからは、実際にケーキ屋さんがやっている工夫をもとに、教える時間をつくる手順を3つに分けて書きます。いきなり全部を変える必要はありません。
手順1:受付の「書く」を、お客様に渡す
あるお店では、クリスマスの店頭予約で、スタッフが聞き取って書く方式をやめました。お客様に申込用紙へ書いていただき、それをコピーして控えにお渡しするだけ。「それが一番早いんですけど」とお店の方は話していらっしゃいました。
さらに一歩進めて、クリスマスケーキの予約を100%Web予約にしたお店もあります。店頭で予約したいというお客様には、お客様ご自身のスマートフォンで、スタッフが横で教えながら入力していただく。オーナーの方は「そうすると次からそれでやれるじゃないですか」と話していました。一度やっていただければ、次からはお客様が自分で予約してくれる、ということです。
どちらのお店も、受付を「お店が聞き取って書く仕事」から「お客様が書いて、お店は確認する仕事」に変えています。聞き間違いが減るうえに、受付に張り付く人がいらなくなります。
手順2:空いた時間を、先に「教える時間」として決めておく
受付の作業が減っても、空いた時間は放っておくと別の作業で埋まります。私が新聞販売店で何度も経験したことです。だから、減った分の時間を、最初から「教える時間」としてカレンダーに入れてしまうのがいいと思います。
たとえば電話受付が1日75分減ったなら、そのうち30分を「新人の方とナッペを一緒にやる時間」と決める。時間が先に決まっていれば、教える側も「今日は何を見てあげようか」と考えるようになります。
手順3:「どこまでできれば次に進めるか」を一行で書く
オーナーの方が「教わっていない」とおっしゃっていたのは、まさにここです。立派な研修マニュアルを作る必要はありません。工程ごとに「これができたら次を任せる」を一行ずつ書くだけで十分です。
若い方が辞める理由として挙がっていた「ナッペまで何年も待つ」という不安は、先が見えないことから来ています。次に何を覚えれば、何を任せてもらえるのかが見えていれば、同じ下準備の仕事でも「作業」ではなく「途中の段階」になります。
一行の書き方の例
基準そのものは、お店ごとに違って当然です。大事なのは、それが店主の頭の中ではなく、紙の上にあることです。
カフェなど、ケーキを扱う飲食店の方へ
冒頭に書いたとおり、この「辞める理由は作業」という話には、カフェの方からもたくさん反応をいただきました。ケーキや焼き菓子を自家製で出しているカフェは、厨房と接客を少人数で回していることが多く、ケーキ屋さんと同じ構造を抱えています。
特に、ホールケーキや焼き菓子の詰め合わせ、季節の予約商品のようなテイクアウトの予約は、店内のお客様の対応と同じ時間帯に電話やDMが重なります。受付を外す考え方は、カフェでもそのまま使えます。
よくある質問
Q. ケーキ屋さんの人手不足は、求人を増やすしかないのでしょうか?
求人を増やすことも大切ですが、それだけでは足りないことが多いです。新しく入った方が続かなければ、採用と教育の手間だけが残ります。先に、今いる店主とスタッフの時間を何に使っているかを見直し、電話やDMの受付のように品質に関わらない作業を減らすと、教える時間が生まれて定着につながります。
Q. 若いパティシエが辞める理由で多いものは何ですか?
体力的なきつさに加えて、「この店では何も覚えられない」「次に何を任せてもらえるか見えない」と感じることが大きな理由として挙げられています。毎日が決まった作業の繰り返しで、成長している実感が持てないときに辞めていく方が多いようです。
Q. 教える時間がまったく取れません。何から始めればいいですか?
まずは1週間、店主とスタッフが電話・DM・予約の書き写しに使った時間を記録してみてください。多くのお店で、想像より長い時間がかかっています。そのうえで、いちばん時間を取っている受付から、お客様に入力していただく形に切り替えていくのがおすすめです。
私たちが料金の形にこだわる理由
私たちは、ケーキ店専用 店頭受取予約+AI販促プラットフォーム「いつでもケーキ」を運営しています。予約の受付・確認・事前決済をお客様側で完結させて、店主とスタッフが作ることと教えることに時間を使えるようにするための仕組みです。導入したお店では、クリスマスの電話対応が29時間減った例もあります(導入店の実データはこちら)。
料金は、初期費用0円・月額0円で、売れた分だけ注文代金の5.5% + 決済手数料3.6%をいただく形にしています。人手が足りないお店に、毎月の固定費という負担をもう一つ増やしたくなかったからです。売れなければ私たちも稼げない。だから、お店の売上と時間が増える機能を全力で作るしかない。同じ船に乗る、という考え方で作っています。
ホームページがなくても、SNSと地図だけで集客していたお店が、注文の受け口だけを足して始めた例もあります(ケーキハウスカスカワ様の導入事例)。
ケーキ屋さん向けのサービスです
店頭受取のWeb予約を、初期費用0円・月額0円ではじめる
ケーキ店専用 店頭受取予約+AI販促プラットフォーム「いつでもケーキ」。実際にケーキ屋さんと一緒に開発したので、営業時間外の注文も受けられます。
サービス紹介ページが開きます。その場での申し込みは不要です。
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